未来の農業ってそんな感じなの?

農園ブログ

プライベートでちょっとバタバタしていたので前回投稿から少し時間が空いてしまいました。

今回は「未来の農業」について思ったことをお話しします。

ひと月ほど前から日本の農業機械最大手メーカーのクボタさんが未来の農業に向けたコンセプトCMを放映していました。Youtubeにもロングバージョンがアップされていますね。

高齢で離農しようと思っている老人のところに、幼いときに「一緒に野菜を育てる」と約束した娘が無人自動運転大型トラクターと農業用ドローンを引き連れて颯爽と現れ「約束忘れていないよ」と告げる・・・。
一般の方の間でこのCMはどのように映ったでしょう?コメント欄には「目頭が熱くなる素敵なCM」とか感動しました的なコメントが結構ついています。
農業者の間でも話題になりました。感動したとか希望を感じたという話ではなく「なんだかなー」とツッコミで盛り上がったのです。
ツッコミのポイントはいくつかあります。この動画を見ながら確認しましょう。

私が最初に気になったのはこの「お父さん」の経営規模です。
何度か写される圃場は区画整理されていて縦方向にはかなり長いようです。おそらく約100メートル。
幅は画面からは推測が難しいところですがトラクターの耕うん幅などから推計すると12~20メートルくらいではないかと思います。そこから導き出される圃場の面積は12~20アール(1200~2000平米)という規模です。
これは非常に小規模です。

CMの冒頭部分で出てくる「おじいちゃんから届いた野菜」を見るとキャベツ、ニンジン、ジャガイモ、大根、タマネギなどのベーシックな野菜を栽培しているようなので「多品目少量栽培」なのだろうと想像します。ということは市場への一括販売ではなく、特定の販売先との契約販売か地元の農産物直売所での販売スタイルかな。
「多品目少量栽培」でも1ヘクタールくらい(お父さんの規模の約5倍)でしっかり稼いでいる農家さんもいらっしゃいますが「お父さん」は小規模、しかも娘さんは東京に行ってしまったので一人で経営しているようです。
ひょっとしたら若いころは娘さんの学費を稼ぐために外に農業以外の仕事も持った兼業経営だったのかな。

娘も東京でクボタに就職して技術者として独立。今は結婚して夫、娘と戸建ての家に住んでいます。
「お父さん」は年金と野菜の売り上げでなんとか生活しているのでしょう。しかし、もう年老いて体も動かなくなってきました。圃場を維持するのも難しくなってきたので離農を決意します。

そこに颯爽と現れる娘。100馬力の自動運転GPSトラクターと農業用ドローンを持ってきます。

おいおい、ちょっと待て!
これまでキャビン(運転席を囲う枠)もついていない推定20~25馬力のトラクターだったのに、いきなり100馬力のGPS付き?
このトラクター1500万円以上するでしょ?お金はどうしたの?社員割引?モニタープレゼント?
そもそも圃場は2反しかないよ?しかも多品種少量生産だよ?どう考えても経営規模に対してあり得ないオーバースペックです。
さらに農業用ドローンもセットです。こちらは機体+散布装置+バッテリ+充電器で165~204万円です。
たった20アール、しかも多品目の圃場でドローンに何を散布させるのでしょう?しかも農業用ドローンを使うには最低2人で作業しなくてはなりませんし、オペレータは講習を受けてライセンス取得が必要です。これも規模に不釣り合いです。

この辺のツッコミどころで一時農業者のFacebookページでは結構盛り上がりました。

クボタのリリースを読んでみると

高齢化による就農者・販売農家の減少、それに伴う担い手不足と農家あたりの耕作面積拡大による作業負担増など、日本の農業は様々な課題を抱えています。クボタは超省力・高品質生産を実現する「スマート農業」に関するソリューションを開発・提供。栽培から経営管理に至るまで、広く農業経営をサポートすべく進化を重ねています。今後も更なる技術革新に取り組むことで、「未来の農業」に貢献できるよう取り組んでまいります。

ということだそうです。

ゲラゲラ笑っているだけじゃダメなので真面目にこのCMのメッセージを考えてみます。

ひとつは農業が抱える人員不足と高齢化です。私の住む地域もそうですが「50代は若手」という世界。周りを見渡しても田んぼで頑張っているのは60~70代が大多数。10年もしないうちに担い手が激減することは明白です。
この問題を解決するためには、地域でまとまって法人化するなどして農地や労働力を集約し効率化しなくてはなりません。
規模が大きくなれば作業の効率化も必要になります。そのキーになるのが「スマート農業」だとクボタさんは考えているのでしょう。

私も農地を維持していくには集落営農が不可欠だと思っています。強いリーダーシップを持った農業者を中心に経営感覚の優れた人材も育成しながら魅力的な農業組織が生まれることを願ってやみません。
私の地域では「若手」がこうした危機意識を持って将来の農業を考える集まりが2年ほど前に発足しました。今まで避けてきたパラダイムシフトの議論が深まることに期待しています。

もうひとつの問題は、農産物の販売価格が低いのに農業機械は高価だということです。
農産物価格が低いことは流通構造や市場のニーズなど複合的な要因があるのでここでは語りつくせませんが、農業者側もただ「米が安い」とか「せっかく作ったのに出荷するだけ赤字だ」とか他人のせいにして嘆いてばかりいないで「いかに再生産可能な価格で買っていただくか」という営業・経営的な視点で栽培計画や販売戦略を組み立てていく時代なんだろうなと思っています。
農業機械が高いという点は、メーカー側からすれば開発・製造コストを考えればしかたないのでしょう。販売台数だって自家用車並みの数が売れるわけではありません。よって、農地を維持するためにもこうした設備投資には積極的な公的補助金が不可欠でしょうね(今でも様々な補助金があります)

CMに話を戻します。
この娘さんは離農する父に、個人経営を辞めて集落でまとまって営農することで地域の農地を守っていこうと提案しているのでしょう。
私は直接畑を耕したりの手伝いはできないけど、農地集約した後の作業効率化を自分が開発した未来の農業機械が手伝うよ。だから安心して引退してねと言っているのではないでしょうか。「お父さん」は「時代が変わったなぁ」としみじみ感慨に耽り、泣き笑いのような表情を浮かべているというストーリーだと解釈しました。

腰の曲がりかけたおばあちゃんが鍬を片手に畑を耕すという風景は間もなく消えるでしょう。
「大根作り過ぎたっけちっとばかもらってくんねかね」みたいな声が懐かしいです。

私もあと何年農作業ができるか分かりませんが、次世代に負債ではなく遺産として農地を残していきたいと思っています。


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